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鹿児島地方裁判所 昭和56年(ワ)162号 判決

原告

真竹ユミ子

被告

門松桂子

ほか二名

主文

一  原告に対し、被告門松、同向井は連帯して金二七五万八三九五円およびこれに対する昭和五四年四月一日から、被告平は金一三七万九一九七円およびこれに対する昭和五四年四月二日から、それぞれ完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  この判決は原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

ただし被告平が金五〇万円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

四  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは原告に対し、各自金一〇〇〇万円およびこれに対する被告門松、同向井は昭和五六年四月一日から、被告平は同月二日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  被告門松、同向井

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  被告平

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行免脱宣言。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

原告は次の交通事故(以下「本件事故」という。)により、後記損害を被つた。

(1) 日時 昭和四八年七月二二日午後五時二〇分頃

(2) 場所 鹿児島市下荒田町二二九五番地路上(以下「本件道路上」という。)

(3) 加害車 普通乗用自動車

(4) 右運転者 被告門松桂子(以下「被告門松」という)

(5) 被害者 原告(当時被告平安信(以下「被告平」という)運転の自動二輪に同乗中)

(6) 事故の態様

被告門松は本件加害車を運転して本件道路上を進行中、原告が同乗中の被告平運転の自動二輪に衝突した。

(7) 結果

本件事故により、原告は右脛骨骨折(開放性)、右脛骨化膿性骨髄炎の傷害を被り、次のとおり入院、通院し治療した。

〈1〉 昭和四八年七月二二日から同年一〇月三日まで河野病院に入院

〈2〉 同年一〇月三日から同四九年一〇月二八日まで整形外科白坂病院に入院

〈3〉 同年一〇月二九日から同五〇年九月二一日まで右病院に通院

〈4〉 同年九月二二日から同五一年七月一九日まで右病院に入院

〈5〉 同年八月二〇日から同五二年一〇月二七日まで右病院に通院

原告は右のとおり治療に努めたが回復するに至らず、右足関節機能は全廃、右膝関節に著しい障害を残し、昭和五五年六月鹿児島県から身体障害者四級に、さらに同年九月三日、自賠責により後遺症一〇級にそれぞれ認定された。

2  責任原因

(1) 被告平

被告平は、本件道路上はT字路交差点であるため、左右から進行してくる車両の有無を確認し、場合によつては一時停止するなどして自車の安全を確認して交差点に進入すべき注意義務があるのにこれを怠り漫然と同交差点に進入した過失があるから民法第七〇九条により原告の後記損害を賠償する義務がある。

(2) 被告門松

被告門松は、被告平運転の自動二輪車が前記交差点に進入しようとしているのを認識していたのであるから、速度を調節してハンドル・ブレーキを厳格に操作し、進路の安全を確認しつつ進行すべき注意義務があるのにこれを怠り漫然と時速約七〇キロメートルの速度のまま進行した過失があるから民法第七〇九条により原告の後記損害を賠償する義務がある。

(3) 被告向井順一郎(以下「被告向井」という)

被告向井は本件加害車を所有しこれを自己の運行の用に供していたものであるから、自賠法第三条によつてその運行によつて生じた後記損害を賠償する義務がある。

3  損害

(1) 慰藉料 金六〇〇万円

〈1〉 入・通院分 金三〇〇万円

〈2〉 後遺症一〇級分 金三〇〇万円

(2) 逸失利益 金一五三八万〇五九二円

原告は昭和二九年八月二四日生れで、本件事故当時一九年で合資会社春田屋に勤務し、基本給四万二三七六円であつた。夏季、年末にそれぞれ基本給の約一か月分の手当(賞与)が支給されていた。

〈1〉 昭和四八年 金二二万五二八〇円(ただし基本給の五か月分、賞与一万一六〇〇円)

〈2〉 昭和四九年 金六五万二五八二円(ただし基本給を前年の一割増とし、基本給の一四か月分)

〈3〉 昭和五〇年 金七一万七八三六円(算式は右に同じ)

〈4〉 昭和五一年 金七八万九六一四円(右に同じ)

〈5〉 昭和五二年 金八六万八五七四円(右に同じ)

〈6〉 昭和五三年 金一二七万六三六七円(原告と同期入社の給与から算出)

〈7〉 昭和五四年 金一三六万七九三七円(右に同じ)

〈8〉 昭和五五年 金一三六万七九三七円

〈9〉 将来の逸失利益 金八一一万四四六五円

原告は後遺症一〇級になつたため、労働能力の二七パーセントを喪失した。昭和五六年(原告の年齢二六年)からの就労可能年数は四一年、ホフマン係数は二一・九七であるから、後遺障害による逸失利益は次のとおりである。

1,367,937×0.27×21.97=8,114,465(円)

4  弁護士費用 金一五〇万円

原告は本件訴訟の追行を原告訴訟代理人に委任し、弁護士報酬として金一五〇万円を支払う旨約した。

5  損害の填補 金七九三万円

原告は被告門松、同向井から各金一八〇万円、被告平から金二三一万円の支払を受け、後遺障害につき自賠責保険金二〇二万円を受領し、それぞれ前記慰藉料および逸失利益に内入充当した。したがつて3及び4の損害総額合計金二一八八万〇五九二円から右填補額金七九三万円を控除した残額は金一三九五万〇五九二円である。

6  よつて原告は被告向井に対し、自賠法第三条に基づき、被告門松、同平に対し民法第七〇九条に基づき各自金一三九五万〇五九二円の内金一〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五六年四月二日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの答弁

1  被告門松、同向井

(1) 請求原因第1項中、(1)ないし(5)は認めるが(6)は否認する(ただし、原告主張の日時、場所において交通事故が発生したことは争わない)、(7)のうち、原告が右脛骨骨折の傷害を受けたこと、河野病院に入院したことはいずれも認めるがその余は否認する。

(2) 同第2項(2)、(3)中、被告向井が本件加害車の保有者であることは認めるが、その余は否認する。

(3) 同第3項中、原告が本件事故当時合資会社春田屋に勤務していたことは認めるが、その余は否認する。

(4) 同第4項中、委任の点は認め、その余は不知。

(5) 同第5項中、被告門松、同向井がそれぞれ原告に金一八〇万円を交付したことは認め、その余は否認する。

2  被告平

(1) 請求原因第1項(1)ないし(6)は認める。同項(7)のうち、原告が傷害を負つたことは認めるが、傷害の内容及び治療の経過は不知、仮に原告主張の傷害が存したとしても脛骨化膿性骨髄炎と本件事故との因果関係は否認する。

(2) 同第2項(1)は否認する。

(3) 同第3項中、原告の生年月日、年齢、勤務先は認めるがその余は否認する。

(4) 同第4項中、委任の点は認め、その余は不知。

(5) 同第5項は認める。

三  被告らの主張及び抗弁

1  被告門松、同向井

(1) 本件交通事故は、被告平及び原告が進路の安全を確認し、ハンドル、ブレーキを適確に操作して進行すべき注意義務があるのにもかかわらずこれを怠つて無謀な進行をした過失によつて発生したものであるから、被告門松には過失はない。また被告向井は加害車の運行に関し注意を怠らずかつ加害車に構造上の欠陥又は機能の障害はなかつたので、被告向井にも賠償責任はない。

(2) 仮に右主張が認められないとしても、原告は遅くとも本訴が提起された昭和五六年三月二〇日の三年前である昭和五三年三月一九日には損害および加害者が被告門松であり、保有者が被告向井であることを知つたものであるから、原告の被告門松、同向井に対する損害賠償請求権は時効によつて消滅した。被告らは昭和五六年四月二七日の本件口頭弁論において右時効を援用する。

(3) 仮に右主張が認められないとしても、原告には、次のとおり、重大な過失が存するから、損害賠償額の算定にあたり斟酌されるべきである。すなわち、被告平は加害車との間隙、同車との位置、動静に注意し減速徐行して進路の安全を確認しながらハンドル、ブレーキを適確に操作して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、時速約七〇キロメートルで走行して加害車の前方を通過せんとして加害車の右前部に接触したものであり、原告は被告平の友人であり被告平の運転する自動二輪に同乗して共同でドライブしていたものであり、かつ右被告の無謀運転を阻止せずこれを容認していたものであるから、原告には重大な過失が存する。

2  被告平

(1) 本件事故は、被告門松が進入、進行禁止の道路に前方及び左側の安全確認を怠つていきなり進入してきた過失にもとづくものであつて、被告平には過失は存しない。

(2) 仮に右主張が認められないとしても、原告との間に昭和四八年八月八日「入院中の治療費一切を被告平において支払うものとする」旨の示談が成立し、被告平は右示談にもとづき原告の退院日時、治療費の額を確認しないまま、原告主張の金額を支払つてきた。従つて治療費を除くその余の損害については事故日より三年経過しており、その請求権は時効により消滅した。被告平は昭和五六年八月三日の本件口頭弁論において右時効を援用する。

(3) 原告の傷害については昭和五三年一月一七日症状固定の診断がなされており、後遺症に基づく損害については、本訴提起時、すでに三年を経過しているのでその請求権は時効により消滅した。被告平は昭和五六年八月三日の本件口頭弁論において右時効を援用する。

(4) 右主張がいずれも認められないとしても、原告は友人宅へ遊びに行くため、被告平運転の自動二輪に同乗させてもらつたものであつて、原告は好意同乗者というべく、損害賠償請求につき相当の減額がなされてしかるべきである。

四  被告らの抗弁に対する認否

1  消滅時効の抗弁について

(1) 消滅時効の起算日は、被告らが弁済をやめた時から、すなわち、被告向井、同門松は昭和五三年七月から、被告平は昭和五四年一二月からそれぞれ起算されるべきである。

(2) 仮に右主張が認められないとしても、原告は昭和五五年九月三日自賠責の後遺症一〇級に認定された。従つて原告が損害を最終的に知り得たのは右年月日であるから、消滅時効は右同日から起算されるべきである。

(3) 過失相殺の抗弁について

被告平に関する限りでは、好意同乗者として一定額の相殺がなされるべきであるという主張は争わない。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因第1項中(1)ないし(5)及び(7)のうち、原告が右脛骨骨折の傷害を受けたこと、河野病院に入院したことは原告と被告門松、同向井間に争いがなく、同第1項(1)ないし(6)の事実及び(7)のうち原告が受傷した事実は原告と被告平間に争いがない。成立に争いがない甲第一、第二号証、第五号証の一、二、第七号証の二及び原告本人尋問の結果によると、原告は昭和四八年一〇月三日から同四九年一〇月二八日まで白坂病院に入院し、昭和四九年一〇月二九日から同五〇年九月二一日まで同病院に入院し、同五一年七月二一日から同五二年一〇月二七日まで右病院に通院していたこと、昭和五五年九月三日、安田火災海上保険株式会社から原告に対し本件事故につき保険金一〇一万円を支払う旨の通知がなされたこと、以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。右事実によれば右保険金額は本件事故当時における自賠法施行令第二条の「後遺障害別等級表」の第一〇級の保険金額に相当するところから、原告の後遺障害は第一〇級であることが認められる。

二  被告向井が本件加害車を自己のため運行の用に供するものであることは原告と被告向井間に争いがない。

被告向井は本件事故の発生につき、被告門松に過失がない旨抗弁するが、本件証拠上これを認めるに足りず、かえつて後記認定のとおり被告門松に過失があつたことが明らかであるから、右抗弁は失当である。よつて被告向井は自賠法第三条により本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務がある。

三  本件事故の態様、被告らの責任

成立に争いのない乙第一号証の一ないし四、丙第一、第二号証及び被告門松、同向井、同平の各本人尋問の結果を総合すれば、本件事故地点は本件事故当時、緑地帯と幅員約七メートルのグリーンベルトにはさまれた幅員約一・八メートルの道路(以下「一・八メートル道路」という)上であり(本件事故当時歩行者用道路に指定されていなかつた)、グリーンベルトの両側には、一・八メートル道路と、幅員約六メートルの道路(以下「六メートル道路」という。)が並行してあり、さらに六メートル道路は幅員約一五メートルの道路とT字型に交差していること、原告本人及び被告平本人尋問の各結果によると、昭和四八年七月二二日午後五時二〇分頃、被告平は自動二輪車に原告を同乗させ、鹿児島市下荒田町二二九五番地(本件事故当時の番地)先の、前記緑地帯とグリーンベルトの間の一・八メートル道路上の中央付近を時速約六〇キロメートルで走行していたところ、被告平は被告門松運転の加害車が前記一五メートル道路から六メートル道路に向かつて左斜めに進行してくるのを発見したが、更に被告平が本件事故地点に接近したところ、加害車は六メートル道路を横切り、グリーンベルトの切れ目の間を通過し、被告平が走行中の一・八メートル道路上にまさに進入せんとしていることに気づき、衝突をさけるため被告平は自動二輪を左にハンドルをきつたが及ばず加害車の右前部と自動二輪の後部とが道路中央付近で衝突したこと、加害車は一・八メートル道路を横断し緑地帯に乗りあげたこと、一方、被告門松、同向井は六メートル道路にT字型に交差する一五メートル道路の左右に存する空地に駐車していたが、砂ほこりがひどくなつたため緑地帯の方に移動しようと考え、空地から一五メートル道路に出て、右道路とT字型に交差する六メートル道路に出てそのままグリーンベルトの切れ目の間を進行し、本件衝突地点上の一・八メートル道路にさしかかつたが、被告門松は右道路上には自転車、単車等の走行はありえないと考え、左右の安全を全然確認せず進行したため被告平運転の自動二輪と衝突したこと、以上の事実が認められ、右認定に反する被告門松、同向井の本人尋問の各結果は次の理由により採用しない。すなわち、被告門松本人尋問の結果中には、被告門松は、グリーンベルトの切れ目からほんの少し一・八メートル道路にはみ出た位置で停車した旨の供述部分が存在するが、被告門松本人尋問の結果は前認定の、被告平は道路の中央付近を走行していた事実及び加害車が一・八メートル道路を横切り緑地帯に乗りあげた事実に照らし、採用しない。

そこで以上の事実を基礎に被告門松の過失の有無を検討するに前記認定の道路の状況、同認定の事故の態様に鑑みると、加害車を運転していた被告門松においては、グリーンベルトの切れ目の間から一・八メートル道路を横断して緑地帯の方に進行するに際しては、進路の安全を確認しつつ進行すべき注意義務があるのに、一・八メートル道路上には車が運行しないものと考え、右注意義務を怠り漫然と進行した過失があり、仮に緑地帯に駐車する意図がなかつたとしても、前認定のとおり被告門松は一・八メートル道路に進入したのであるから、右と同様の注意義務があることには変わらず、いずれにしても被告門松は民法七〇九条により原告の後記損害を賠償する義務がある。次に被告平の過失の有無につき検討するに、前記認定の道路の状況、事故の態様に鑑みると、被告平としてはグリーンベルトの両側には一・八メートル道路と六メートル道路があり、普通乗用車は六メートル道路を走行するものと考えたとしても、加害車が一五メートル道路から六メートル道路の方に左斜め方向に進入して来るのを認めた以上、六メートル道路は一方通行であるから右折しない限り六メートル道路を通行することができないので、加害車は六メートル道路を進行するのではなく六メートル道路を横断しグリーンベルトの切れ目の間を通過して一・八メートル道路の方に向かつて、場合によつては一・八メートル道路を横切つて緑地帯の方向に進行してくることが認識しえたはずであり、また被告平としては一・八メートル道路を走行中、グリーンベルトには普通乗用車が通過ないし駐車しうる程度の幅の切れ目が存在していること及び六メートル道路が一方通行で、あることも認識しえたはずであるから被告平としては加害車が六メートル道路を斜め方向に進行しているのを認めた時点で減速して徐行すべき注意義務があるところ、被告平は普通乗用自動車は一・八メートル道路を進行することは全くありえないと考え漫然と減速せず走行した過失があるので、被告平は民法七〇九条により原告の後記損害を賠償する義務がある。

四  被告らの抗弁に対する判断

1  過失相殺の抗弁

本件事故の態様及び被告らの責任の項で認定したとおり、被告平の注意義務違反の程度は被告門松に比較するとかなり低く、被告門松らが主張する如く、被告平の運転が無謀運転であるとは認め難く、従つて原告が被告平の無謀運転を容認していたことは認められず、他に同乗者である原告に過失相殺として減額すべき事情は認められない。

2  好意同乗者の抗弁

原告本人及び被告平本人尋問の各結果によれば、原告は知人宅へ遊びに行くため被告平運転の自動二輪に無償で同乗させてもらつたことが認められ、被告平には本件事故に関し軽過失が認められるにすぎないことは前認定のとおりであるから、原告の被告平に対する損害額については五割減額するのを相当とする。

3  消滅時効の抗弁

原告本人尋問の結果により成立の真正が認められる甲第八、第九号証、原告と被告平間において成立に争いのない甲第四号証及び原告本人尋問、被告門松、同向井、同平本人尋問の各結果によれば、被告門松、同向井、同平は昭和四八年八月から原告に対し、入院生活費として毎月金三万円宛支払い、原告が退院し通院している間も継続して支払つてきたこと、原告の増額要求を被告らが拒否したことから、原告は被告らからの毎月三万円の支払を受けることを拒んだため、被告門松、同向井は昭和五三年六月以降、被告平は昭和五五年一月以降、原告に対する毎月三万円の支払をやめたこと、以上の事実が認められ他に右認定を左右するに足りる証拠はない。右事実によると被告らは、原告が本件事故により被つた全損害額に対する一部弁済として毎月金三万円を支払つてきたものと認めるのが相当である。従つて消滅時効は被告らが弁済をやめたとき、すなわち被告門松、同向井については昭和五三年七月から、被告平については昭和五五年一月からそれぞれ進行するものと認められるので、被告らの消滅時効の抗弁は理由がない。

五  そこで原告の損害について判断する。

1  慰藉料

本件事故による傷害の程度、入通院の期間、後遺症の程度その他本件にあらわれた諸般の事情を斟酌すると金三〇〇万円をもつて相当とする。

2  逸失利益

原告が本件事故当時合資会社春田屋に勤務していたことは原告と被告ら全員の間において争いがなく、原告が昭和二九年八月二四日生れであることは原告と被告平間に争いがない。成立に争いのない甲第一号証及び原告本人尋問の結果により成立の真正が認められる甲第三、第六号証並びに原告本人尋問の結果によれば、昭和四八年七月当時の原告の一か月の給与は手取り四万二三七六円であること、年間少なくとも給与の二か月分の賞与が支給されていること、給与は一年毎に少なくとも一割増額されていること、原告は昭和四九年三月右春田屋を退社したが、昭和四八年八月以降給料を支給されていないこと、原告は昭和五三年一月一七日、白坂病院で診療を受け同日付で原告の症状は固定した旨の診断書が作成されていること、その後一度だけ通院したことがあるが、原告の症状は第一勧業銀行に勤務するようになつた昭和五六年五月頃までの間においても全く変化がなかつたこと、以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。右事実によると原告の後遺障害は昭和五三年一月一七日固定したものと認められる。そこで原告の後遺症が固定する昭和五三年一月一七日までの逸失利益を算定すると次のとおりである。

(1)  昭和四八年 金二五万四二五六円(月収四万二三七六円の六か月分)

(2)  昭和四九年 金六五万二五八二円(月収四万六六一三円の一四か月分)

(3)  昭和五〇年 金七一万七八三六円(月収五万一二七四円の一四か月分)

(4)  昭和五一年 金七八万九六一四円(月収五万六四〇一円の一四か月分)

(5)  昭和五二年 金八六万八五七四円(月収六万二〇四一円の一四か月分)

(1)ないし(5)の合計金三二八万二八六二円

3  労働能力喪失による損害

原告の後遺障害は前認定のとおり、自賠法施行令第二条の「後遺障害別等級表」の第一〇級に該当すると解せられるので、労働能力喪失率は二七パーセント、喪失期間は就労可能年齢満六七歳までとするのが相当である。よつて労働能力喪失による逸失判益を後遺症の固定した時点において算定すると、次のとおりである。

年収 昭和五三年当時の年収は前記認定のとおり、八一万八九四〇円

喪失期間 原告の症状が固定した昭和五三年一月一七日当時、原告は満二三歳であつたから六七歳までの四四年間

中間利息控除 ライプニツツ方式計算法(係数一七・六六三)

計算式

81万8,940×0.27×17,663=390万5,533(円)

4  以上の合計 一〇一八万八三九五円

5  損害のてん補 七九三万円

原告が被告門松、同向井から各一八〇万円の交付を受けたことは当事者間に争いがなく、原告が被告平から二三一万円の弁済を受け、後遺症保険金二〇二万円を受領したことは原告と被告平間においては争いがない。成立に争いのない甲第七号証の一、二及び原告本人、被告平本人尋問の各結果によれば、原告が被告平から二三一万円の弁済を受け後遺症保険金として二〇二万円を受領したことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

6  弁護士費用 五〇万円

原告が原告訴訟代理人に本訴の提起遂行を委任したことは当事者間に争いがないところ、前記認容額、事件の難易等を勘案し、原告が右代理人に支払うべき弁護士費用のうち、被告らに負担させるべき額は五〇万円とするのが相当である。

六  以上の次第であるから、被告らは原告に対し、連帯して金二七五万八三九五円(ただし、被告平は金一三七万九一九七円の限度において連帯して)およびこれに対する昭和五四年四月二日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるので、原告の本訴請求は右支払を求める限度において理由があるから認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言および仮執行免脱宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 日野忠和)

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